海は私たちに食糧の供給や気候の調整、レクリエーションといったさまざまな恵みを与え、長い歴史の中で多様な文化を育んできました。しかし、人間活動の結果としての気候変動によって海洋環境は急速に変化しており、海洋環境の劣化、生物多様性の低下、水産資源の減少といった課題が顕在化してきました。
温暖化による海の環境の変化を解明し、それが人間社会に及ぼす影響を理解することは、持続可能な社会を築くために不可欠です。本分野は、海洋物理学、海洋生物学、海洋化学といった多角的な視点に基づき、温暖化が進む地球環境の総合的な理解と保全に資する研究を推進します。さらに、フィールドでの実習と国際交流を軸とした教育を通じて、持続可能な社会の実現に向けて世界的に活躍できる人材を育成することを目指しています。
近年急速に進行する温暖化について、海洋熱・物質循環変動の実態とそのメカニズムと、海洋環境の変動が海洋生態系・生物多様性へ及ぼす影響を解明し、海洋学の視点から地球環境を理解するとともに、得られた知見を海洋生態系の保全へとつなげる研究を推進します。
練習船おしょろ丸を用いた乗船実習、水産実験所を活用した沿岸環境実習、サロマ湖における海氷実習など、特色あるフィールドでの教育を積極的に展開し、実体験を通じて海洋環境を理解し、実学としての海洋学・水産海洋学を身につけることができる教育を実施します。
ハワイ大学マノア校海洋地球理工学部・海洋学科の上廣海洋学振興センターとのフィールドワーク実習やシンポジウム実施等を通じたコラボレーションにより、北海道大学が得意とする極域から亜寒帯だけでなく、熱帯から亜熱帯をもカバーする世界的視野を養う教育をおこない、国際社会の発展に貢献できる人材を育成します。
近年、大気中の温室効果ガスの増加に伴い、地球温暖化が加速しています。最近では、毎夏のように猛暑が常態化し、全国各地で記録的な豪雨が猛威を振るっています。こうした急激な環境変化は、私たち人類の生活に深刻な影響を及ぼすだけでなく、さまざまな生物の生息域を変化させたり、生物量の減少を引き起こしたりすることで、地球上の生態系全体に悪影響を与えています。そのような中、海洋は地球表面の約7割を占め、熱や二酸化炭素を受容する巨大なリザーバーとして、地球温暖化の緩和に大きく寄与しています。また、多くの生物に生息場を提供し、生物多様性の増加に貢献しています。この海洋の実態を深く理解し、その役割を正しく認識することは、地球環境を保全し、私たち人類が調和のとれた豊かな未来を築くうえで、極めて重要な課題といえます。
このたび、公益財団法人上廣倫理財団からのご篤志により、北海道大学大学院水産科学研究院海洋生物資源科学部門に上廣海洋学分野を開設しました。本分野では、持続可能な社会の実現を目指し、特に温暖化の影響が顕著な極域から亜寒帯域における海洋環境の理解と保全に資する研究を推進していきます。また、国内外でのフィールドワークを通じて、現場に根差した実践的な知見を培うとともに、国際的な視野と高い専門性を兼ね備えた人材の育成に努めます。こうした海洋学を軸とした研究・教育活動を通して、地球環境の保全や生物多様性の回復に貢献できるよう努力していきます。
今後ともみなさまのご理解とご協力を賜りますよう、お願い申し上げます。
分野主任 笠井亮秀
北海道大学では、2030年に向けた中期的ビジョンであるHU VISION 2030の一つとして「持続可能性の追求」を掲げ、SDGs達成に向けて様々な取り組みを行っております。大学院水産科学研究院では、目標14の「海の豊かさを守ろう」の実現に向けた教育研究を実施しています。例えばおしょろ丸による乗船実習では、日本近海から北極海のさまざまな海域を観測することにより、温暖化や海氷減少によって生態系が変化する様子をとらえ、そのメカニズムを明らかにすることで海洋生物資源の保全への貢献を目指しています。
公益財団法人上廣倫理財団からのご篤志により、2025年4月に設置された上廣海洋学分野では、ハワイ大学マノア校海洋地球理工学部・海洋学科上廣海洋学振興センターと協働し、地球環境の理解と保全を目標として、陸上・湖上・洋上におけるさまざまなフィールド実習を含むより高度な海洋学の教育研究を実施します。これらの教育研究により、SDGs目標14の「海の豊かさを守ろう」の達成にさらに貢献するとともに、世界的に活躍できる人材を育成することを目指しています。
学生の皆さん、ハワイ、北海道、洋上のフィールドでともに海洋学を学び、国際的な視野で持続可能な社会の実現を目指しましょう。
分野副主任 上野洋路
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